ボヘミアン・ラプソディ     #1


 映画の内容は、もう説明不要でしょう。70年代半ばからずっと、ずっと特に日本では最も愛されてきた英国出身のバンド、クイーンの、結成から成功、そして孤高のヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーの生き様を捉えた伝記映画です。

 盛んに流れているTVスポットを観るにつけ、メンバーを演じる俳優がどれだけ本家に似ているのか見極めようという意地悪な興味が湧く方も多いことでしょうが、少なくともこれまで多くの人が抱いてきたメンバー各々のイメージをそのままに体現してくれています。クイーンのギタリスト、ブライアン・メイは、自身を演じるグウィリム・リーについて「鏡を見ているような気になった」という最上級の賛辞を贈ったとか。ただ、こうした姿かたち形のそっくりぶりは、放心状態でエンドロールを眺める頃には、映画の本質とはやや外れたところにあると気づくことと思います。

 ブライアンとドラマーのロジャー・テイラーが音楽総監督を務めているだけあって、なるほど、単なる場つなぎ的なBGMに使用されている楽曲は1つとしてありません。オープニングのお馴染み「20世紀フォックス・ファンファーレ」からして、この作品のための新録だそうで、紛う方ないブライアンのギターの音色にボルテージが上がり、映画自体、クイーンのメンバーのお墨付きだということが一瞬にしてわかります。ブライアンとロジャーはライヴ・シーンのリハーサルにも足を運び、キャストにアドバイスを授けるなど、映画製作に協力を惜しまなかったといいます。

 たとえば、絵葉書で見慣れていた風景や名跡を実際に訪ねたとき、実在の場所だと頭ではずっとわかっていたはずなのに、いざそれが現実のものとして3次元で目の前に迫って来ると、「本当にあったんだ」と、どこかシュールな感覚に囚われるのに似ているかと思います。既視感がある一方で、当事者しか知り得ないであろうエピソードが満載で、新しい発見に喜ぶという体験が続くのです。この映画では、楽曲の作られた裏話として長年、いろいろなところで語られ、人々に記憶されていたことが映像として再現され、あたかもメンバー本人達の行動を追いかけたドキュメンタリーであるかのような錯覚に陥る場面も多々あります。映画のタイトルにもなっている「ボヘミアン・ラプソディ」のメイキング・シーンもそのひとつ。

 今やスポーツ観戦のアンセムと化した「ウィ・ウィル・ロック・ユー」のイントロのレコーディング風景も画期的。ブライアンとロジャーによる考証で裏付けられていることを考えれば、本当にクイーンの4人はスタジオでこうやって音入れをしていたのだと思われ、そこはかとない感動が押し寄せます。

 こうして、周知の事実として知られていることが映像として突き付けられるのは、時に小気味好くもあり、時に心苦しくもあります。1991年11月24日、フレディ・マーキュリーという不世出なミュージシャンがAIDSで死去した―その事実は変わらず、バンドは絶頂期にありながら、フレディが徐々に堕ちていく様子には、熱烈なファンなら目や耳を塞ぎたくなりそうです。(#2につづく)

ボヘミアン・ラプソディ     #2


 11月上旬、日本での公開直前に俳優3人がプロモーションのため来日。ロジャー・テイラー役のベン・ハーディは新作映画の撮影地に足止めされ残念ながら欠席だったものの、他の3人は一様に、クイーンとは相思相愛である日本に来られたことを素直に喜んでいました。ベースのジョン・ディーコン役、ジョー・マッゼロは、「撮影初日から仲間内で、『日本にこの映画のプロモーションで行けたらすごくないか』と話していた。それがこうして実現して、まさに夢がかなった」と話していました。

ジャパンプレミアムに登場
ファンと共に「ウィ・ウィル・ロック・ユー」を合図に鏡割りをしました!

 フレディ・マーキュリーに扮するのは、TVシリーズ「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」でエミー賞を受賞、映画『ナイト・ミュージアム』シリーズで古代エジプトの王子を演じたラミ・マレック。ジャパン・プレミアではひときわ熱い声援を浴びていました。世界中の人々の記憶にいまだ強烈に焼き付けられているフレディを演じるにあたり、もちろんプレッシャーを感じていたラミですが、その役作りについては、こう話しています。「脚本を読んでいると、22ページに『フレディ・マーキュリー、さかさまにピアノを弾く』とあって、これほど大変なことがあり得るかと思った(笑)。フレディは、何百、何千という人々を掌に掴んでいる超人であり、僕はその彼をなんとか人間に降ろしてこなければならないと思った。だが同時に、彼は誰かの掌に包まれたがっている人だと気づき、そこなら自分も共感できるというところから始まり、彼が人間の複雑さにもがいているところ、移民である背景を含め自分のアイデンティティを探そうともがいているところから、自分との共通点を見出そうとした」。そして準備に1年かけ、「取り憑かれたように、日本のファンのホームビデオに至るまでありとあらゆるライヴ映像を観まくり、ラジオ・インタビューなども網羅して研究した上で、フレディがステージのみならず私生活でもとても自由気ままで、1秒ごとに何が起こるか分からない、目の離せない人物だったことを知った。それで、モノマネをしようとするのではなく、彼と同じように自由気ままにしようと、振付師にはつかず、ムーヴメント・コーチについた。また、フレディの話し方の出自である彼の母親の話し方を研究し、彼が影響を受けたボブ・フォッシーやライザ・ミネリといった人々の動きに取り組んだ。こぶしを突き上げるポーズも、彼が幼少期にボクサーを目指していたことから来ているとわかる。僕は彼の動きを追いかけるモノマネでなく、フレディとしての動きの進化を心掛けたんだ」と説明していました。完成した映画では、彼のこのセオリーは正しかったことが見事に証明されています。

ライブシーンの撮影について、当時の心情をリアルに語ってくれました。

 そのほかの出演者を見てみると、ジョン・ディーコン役にはジョー・マッゼロ。かつて『推定無罪』や『ジュラシック・パーク』シリーズなどで鳴らした子役も今や30代半ばになり、厳しいショウビズ界に身を置きながら大人の俳優の道をきちんと進んでいるのがほほえましくさえ思えます。フレディを売れる前から支え、生涯の友人となるメアリー・オースティンを演じるルーシー・ボイントンも子役出身。『ミス・ポター』でレニー・ゼルウィガー演じる主人公の少女時代を演じていたあの子がこんなにキレイになって…と思うと、時の流れを感じざるを得ません。さらに、「ボヘミアン・ラプソディ」のシングル・リリースに猛反対し、バンドと決裂するレコード会社の重役を演じるのが、『オースティン・パワーズ』で知られるマイク・マイヤーズ。彼が脚本と主演を担当し、ロック・ファンに愛された『ウェインズ・ワールド』で「ボヘミアン・ラプソディ」がフィーチュアされ、オリジナルのリリースから20年近くを経て異例の再ヒットとなったというのに、本作の劇中、そのマイク・マイヤーズの口から同曲を痛烈に批判する言葉が出てくるのは、なんとも皮肉で可笑しいところ。


 さて、愛情と才能、野心が迸り、アイデンティティを模索する焦燥感を抑え切れない、そんなフレディを、彼がどんな状態、状況にあっても常に見守っているのが、家の至る所にいる愛猫たちです。「トム」と「ジェリー」をはじめ、いずれ劣らぬつぶらな瞳が愛くるしく、不用意に声を上げてしまいそうになるので要注意。悩める飼い主を慰める彼らのふとしたリアクションに観客である私達も癒されながら、刻々と近づいてくる終焉に向け、心の準備をさせられることになるのです。

 劇中で使われる歌声のほとんどは、演じているラミ・マレックではなく生前のフレディのもの。こんなにも生気に溢れた声の持ち主がもうこの世にいないと思うと、どうしようもなく寂しい気持ちに襲われます。トレンドという言葉を軽々超越した、普遍のメロディと歌詞の絶妙なフレージング。クイーンの、そしてフレディ・マーキュリーの楽曲の偉大さには今さらながら感服するばかりです。(佐武加寿子)

『ボヘミアン・ラプソディ』
2018年11月9日(金)全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画

ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男

 1970年代後半から80年代前半、一部のテニス愛好家のみならず世の中の誰もがスターと認め、崇めていた稀代の天才テニス・プレーヤー、ビヨン・ボルグ。スウェーデン出身の彼は彫りの深いルックス、「氷の男」=アイスマンと呼ばれるほど何事にも動じない冷静なプレースタイルで、全盛期の人気は凄まじく、テニス人気の底上げに、確実に貢献していました。対する「炎の男」とは、悪童の呼び名で知られるアメリカのジョン・マッケンローのこと。判定が気に食わなければジャッジに悪態をつくのは当たり前、感情剥き出しの悪ガキで、格闘技で言うヒール的な立ち位置にあり、プレー以上に言動が常に注目を集めていました。あれから40年近くが経ち、ナダルにフェデラー、ジョコビッチと、センターコートが似合うスター選手は多くいますが、このボルグとマッケンローほどの個性を放つ絶対的なスターは出現していないように思います。

 映画では、1980年、ボルグの5連覇がかかったウィンブルドン大会での2人の対戦を軸に、それぞれのテニス人生を振り返りながら、試合までの数日間の心理状態をつぶさに描いていきます。
 タイトルこそ2人の名前が並列になっていますが、スウェーデン、フィンランド、デンマークの合作ということもあって、比重が置かれているのはやはりビヨン・ボルグ。刻々と近づいてくる試合の時に向けての彼の焦燥や葛藤が、より深く丹念に掘り下げられています。物語の舞台が欧州であっても台詞は現地の言葉でなく英語に置き換えられることの多いハリウッド映画とは違い、私たち日本人の環境では耳馴染みの薄いスウェーデン語で大部分が展開されることからも、どこか緊迫感がリアルに伝わってくる気がします。試合の日が近づくにつれ、氷の男も、世の中の喧騒の裏では冷静とは程遠かったという、知られざる姿が明かされていくのです。

 映画の中のボルグは、同じ境遇にある人間でなければ理解も共有もできないであろう孤独と重圧に苛まれ、コートの外でも、観ているこちらが一緒になって息苦しくなるほどの闘いを続けていきます。俳優が演じている以上、多少の脚色もあるのだろうとは思いながらも、美談に終始する代わりに、ある意味醜い部分をここまで晒していいものかと心配にさえなってしまいます。ボルグほどの有名アスリートの、いかにもタブロイドが好みそうな逸話が数十年もの間知られずにいたのは、当時、彼にまつわる露出がそれだけ徹底してコントロールされていたということなのでしょう。思えば、最強時代のボルグのプレーを観ていて痛々しさを感じることなどありませんでした。いつも淡々と、勝つべくして勝つ絶対王者としての彼しか記憶にないのです。別段、熱烈なファンでもなく、FILAのロゴを見るにつけボルグの顔を連想する程度だった筆者にとっては、常時、ツアーに帯同する婚約者や、少年期から親以上の時間を共に過ごしてきたコーチの存在をはじめ、「そんなことが」「そうだったんだ」と、この作品で初めて知る事実が満載でした。

 さて、ボルグとマッケンローの2人は、そのパブリックイメージが対極にある氷と炎なら、テニスに目覚めた頃からウィンブルドンの芝に立つに至るまでの物語も対照的です。中でも、ボルグが、テニスを究めるには困難な貧しい家庭で育ち、もともとは「氷の男」の異名とは裏腹に激高しやすい短気な性格だったというのは、新鮮な驚きでした。その少年時代を演じるのは、ボルグの実の息子、レオ・ボルグ。このレオ君もテニス選手で、2017年、スウェーデン国内のU-14チャンピオンとなり、父同様、FILAと契約を結んだことが伝えられています。一方のマッケンローにも、世間にはあまり知られていない事情がありました。傍若無人な「炎の男」をもおとなしくさせる父との特異な関係性、そして先にスターになっていたボルグへの純粋な憧れ。私たちはやんちゃなマッケンローの陰の一面を知ることになるのです。

 映画終盤、いよいよボルグ対マッケンロー、1980年当時の世界ランキング1位と2位によるウィンブルドン決勝戦へ。実際の試合は3時間55分にも及ぶ熱戦で、観る側はあらかじめ結果を知っているのに、それでもストロークごとに手に汗握ってしまうのは、戦場ドキュメンタリーで鳴らし、これが長編ドラマ映画初作品というデンマーク人監督、ヤヌス・メッツの手腕に因るところが大きいと言えるでしょう。ハンディカムやステディカムを駆使して再現された試合は、マルチ・アングルで捉えた人物と球筋により、観客をぐいぐい引き込んでいきます。

 実在の、それも、今なお健在の、有名すぎる2人を演じる俳優の抱えるプレッシャーは並大抵でなかったに違いありませんが、綿密な研究の甲斐あって、違和感なく本人になりきっています。ボルグを演じるスウェーデン俳優の有望株、スベリル・グドナソンは『ストックホルムでワルツを』に出演、『ドラゴン・タトゥーの女』シリーズ2作目で2018年11月に米国公開予定の『蜘蛛の巣を払う女』の主要キャストに抜擢されています。本作ではアイホールの陰影など、もうビヨン・ボルグそのもののルックスで、心の内で増幅していくストレスを見事に表現しています。他方、マッケンローに扮するのは、『トランスフォーマー』以降、活躍目覚ましいシャイア・ラブーフ。顔の造作自体はマッケンロー本人と必ずしも似ていないのですが、飄々とした所作と攻撃的な態度の奥に、不安と苦悶を秘めた多面的な人物像を創り出すのに成功しています。この2人がコートでふと見せる後ろ姿など、特徴的なヘアスタイルとユニフォームも手伝って、もはや本物にしか見えません。もちろん、アスリートを演じるための肉体改造やテニスを含むトレーニングが求められた俳優2人でしたが、ウィンブルドンの試合まで交流がなかった実際のボルグとマッケンローに倣って、試合のシーンまで敢えて接触をしなかったそうです。

 ボルグの才能をいち早く見出し、少年時代から支え続けるコーチのレナート・ベルゲリン役は、スウェーデンきっての名優、ステラン・スカルスガルドが演じています。『パイレーツ・オブ・カリビアン』『マイティ・ソー』『アベンジャーズ』の各シリーズなどの数多くのブロックバスターに出演、極悪人役も人のいいおじさん役も、難なく自分のものにしてしまう名優で、最近では、『マンマ・ミーア!』続編でいい味を出していました。

 エンディング近く、闘いを終えた2人をつなぐ印象的な場面が用意されています。くれぐれも、試合の勝敗がついたところで気を抜いてしまわないように。(佐武加寿子)

『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』
8月31日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開

© AB Svensk Filmindustri 2017

今回の西日本を中心とした大雨の影響により、被害にあわれた皆様にお見舞いを申し上げます。

人命救助を最優先とし、少しでも早く安全を確保できますことを祈っています。

また、ペットの救出にあたっている方たちの安全なる活動もお祈り申し上げるとともに、

私たちにも協力できることをしていきたい考えています。

nukumori 松本ともこ

ペット共に被災された場合の参考に

過日の地震で被災された方々へ、お見舞い申し上げます。
nukumoriでは、イベントごとに冊子を発行していますが、
先日のnukumori vol.8の冊子の中に、
ペットと一緒に被災した際の対応を取材した記事がありましたので、
何かの参考になればと思い掲載します。
pdfはこちら

犬ヶ島

ウェス・アンダーソン監督が手がけたストップモーションアニメ『犬ヶ島』。

愛と勇気の冒険にDOG BLESS YOU!

 物語の舞台は、今から20年後の日本【メガ崎市】。「ドッグ病」、いわゆる「狂犬病」が大流行してしまう緊急事態に、人への感染を恐れた市長は、すべての犬をゴミの島「犬ヶ島」に追放。犬たちは、飼い主から引き離され、強制的にゴミの島に送られてしまいます。12歳の少年小林アタリは、親友で愛犬のスポッツをを救うために一人、小型飛行機に乗って犬ヶ島へ。島に着いたアタリは、必死に生きる5匹の犬たちと出会います。メガ崎市で何が起こっているのか、犬たちとアタリの冒険が始まります。

 スクリーンで見る犬たちは、犬種はもちろん、目、尻尾、歩き方など、細かい動きがにそれぞれ特徴があってびっくりします。特に犬ヶ島での生活は、衣食住どれも過酷。毛も絡んだり、汚れたりした犬たちがよく表れています。パペットの制作リーダーによると、まずクレイ彫刻で犬を作り、パペットの中に入れる可動式金属スケルトンの骨格が作られ、犬の毛並みはテディベアの毛を刈り取って再利用したそうです。アンティークの質感はぬくもりを感じます。

 アタリ少年が愛犬スポッツを捜すために、一緒に冒険することになる5匹。ドッグフードのCMに出ていたプライド高いアイドル犬「キング」、一人で生きてきた喧嘩の強い黒い毛並みのノラ「チーフ」。スポーツチームのマスコット犬として可愛がられていて今も野球のユニフォームを着ている「ボス」などなど、身近に似てる犬がいるかもしれません。それぞれの人との接し方、警戒心、食べ物の習慣、甘え方、遊び方まで細かく描かれ、島に連れてこられる前に、どんな家族と暮らしていたか想像できます。

 未来の日本なのに、懐かしく感じる世界は知ってるような未知の世界です。畳がある家や、打ちっ放しのビル。犬たちも、見た目だけでかわいい!というデフォルメがなく内面が見えてきます。

 人間たちは、日本の未来を模索する。
難しいテーマを、様々な日本のカルチャーで彩っていくクールな一作です。 (tomon)

『犬ヶ島』
5月25日(金)全国ロードショー
配給:20世紀FOX映画
©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

ピーターラビット

【DOG BLESS YOU】編集部オススメのエンタメをpick upする[Editors’ One] (Wan🐾!)
小さな命、自然との共生、、、大切なメッセージとともに、素敵な作品をご紹介します。 第1回目は「ピーターラビット」。

 たぶん世界で一番有名なウサギさん、ピーターラビットの、これが初の実写映画です。原作は、英国の女流作家ビアトリクス・ポターの絵本『ピーターラビットのおはなし(原題:The Tale Of Peter Rabbit)』。出版されたのはなんと今から1世紀以上前の1902年と言いますから、驚異の超ベストセラーです。

 主人公のピーターは、バッグス・バニーやミッフィーよりもずっと前に生まれ、日本でも金融機関から自動車、調味料、飲料、レジャーランドまで多種多様なジャンルのイメージキャラクターに使われてきて、当たり前のように私たちの身近にいる存在になっています。ところが、今回の映画。横っ飛びのピーターがスローモーションになる予告編からも少なからず想像できるように、可愛らしいウサギさんが繰り広げる平和なおとぎ話を求めてお子さま連れで劇場に出かけたりすると、だいぶ面食らうことになりそうです。その裏切られた感は、見かけと言動のギャップで笑わせてくれた邪悪なクマのぬいぐるみ、テッドのそれに近いところはありますが、自堕落で破廉恥なテッドと違い、このピーターの場合は知恵者で無鉄砲。そして好戦的。『ホーム・アローン』のケビン坊やさながらに、いささか度を越したいたずらを繰り出していくのです。

 映画でも、その昔、ピーターのお父さんはマグレガーおじさんの畑に入って捕まり、パイにされてしまった(!!)という背景や、それでもなお畑の作物を狙うやんちゃなピーターとそれを追いかける宿敵、マグレガーおじさんとの間で攻防が繰り広げられるという流れは原作を踏襲しています。ただし中心となるのは、ピーター率いるウサギ集団と、マグレガーおじさんの親戚で動物嫌いのトーマス・マグレガーとの、まさに仁義なき戦い、壮絶なバトル。監督がそのバトルで目指したのは『バンビ』よりも『プライベート・ライアン』のように展開させることだったそうで、ほとんどもう、アクション映画の域です。
 ピーターもマグレガーも、あの手この手で相手を出し抜こうと策を練っては仕掛けるうち、どんどんエスカレート。ついには電気フェンスや爆薬まで登場し、お互いの生命を脅かすまでに…。本来ならマグレガーの言い分や立場は同情を買うはずなのですが、そこは、どれだけ悪い顔を連発しようとも、ピーターがやっぱり可愛くて、観ている側はどうしても害獣、もといウサギたちに肩入れしてしまいます。そんなバトルの根底には、人間と動物の共存の在り方、というテーマもあるにはあるのですが、押しつけがましくないところが、本作の愛すべきポイントにもなっています。

 主人公のピーターラビット以下、動物たちはモーションキャプチャーではなくフルCGの産物。ウサギが洋服を着て、歌って踊っている姿にも、映画が始まって間もなく違和感を覚えなくなっているから不思議です。表情豊かな毛並みも鼻も耳もしっぽも、本物と見惑うほど。あたかもそこにしゃべるウサギが実在するかのように俳優たちと接触する場面も出てきますが、それがごく自然に映像として成立しているところに、製作陣の苦労が偲ばれます。
 壮絶な戦いの場となる庭のある英国らしい田園風景は、実際に原作者のポターが暮らした湖水地方と、オーストラリアのシドニーにあるセンテニアル・パークで撮影されたもの。まばゆい日の光の中に緑が溢れ、花咲き乱れ、野生動物(CGだけど)が駆け回るのどかな風景は、それはそれは美しく、絵本のピーターラビットの世界、ファンタジーそのものです。もし万が一、本作のわんぱくすぎるピーターを受け入れ難い原作のファンがいたとしたら、せめて周りの風景だけでも楽しんでもらいたいものです。

 また、宿敵マグレガーの職場は、ロンドンのナイツブリッジにある老舗百貨店、ハロッズという設定で、撮影は、実際のハロッズの店内で、閉店後の夜間に行なわれました。原作者、ビアトリクス・ポターの描くキャラクターのグッズを20世紀初めから扱ってきたハロッズは、今回の撮影を前のめりで快諾したそうです。ちなみに、ハロッズで映画の撮影が実現したのは、実に90年ぶりのことだとか。

 監督・脚本・製作は『ANNIE/アニー』のウィル・グラック。この作品でも、ピーターや動物たちの歌と群舞など、ミュージカルの要素が随所に取り入れられています。また、軽妙なせりふ回しは、テレビの構成作家出身というキャリアの賜物でしょうか。なにより、あのピーターラビットのいかにも人畜無害なイメージを、伝統と気品を損なわない程度に打ち破った、その思い切りの良さには拍手を贈りたくなります。

 ピーターの声を担当するジェームズ・コーデンは、イギリス出身ながら米CBSの夜中のトークショー「レイト×2ショー with ジェームズ・コーデン」の司会として、全米では知らない人はいない人気俳優。この冠番組では、有名人をゲストに車の中で歌うコーナーが特に人気で、ミシェル・オバマ元大統領夫人の回など、たびたび日本のワイドショーなどでも取り上げられているので、ご存じの方も多いでしょう。映画『はじまりのうた』や『イントゥ・ザ・ウッズ』で披露した彼の芸達者ぶりは、ここでも存分に発揮されています。一方、ピーターたちを本来の愛らしいウサギさんとして可愛がり、常に味方をしてくれるのは、ビアトリクス・ポッターをモデルにしたと思われる、画家のビア。演じているのは、テレビ・シリーズ「ダメージ」でグレン・クローズにいたぶられ、いつも困り顔だったローズ・バーン。映画では『X-MEN』シリーズや、本作のグラック監督がメガホンを執った『ANNIE/アニー』にも出演しています。トーマスに扮するのはアイルランド出身のドーナル・グリーソン。『レヴェナント:蘇えりし者』や『スター・ウォーズ』シリーズの近作で重要な役に起用されてきました。今回も悪役と言えば悪役ですが、同情の余地のあるところが、これまでと少し違う点でしょうか。このバーンとグリーソンはそれぞれ、本作でアヒルとカエルの声も演じているところに注目。さらに、出番こそ少ないものの強い印象を残すマグレガーおじさん役はベテラン、サム・ニール。『ジュラシック・パーク』の博士役を思い返すと、じいさん役が似合う風貌になったものだなと、正直、時の流れを感じてしまいます。(佐武 加寿子)

『ピーターラビット』5月18日〔金)TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー 
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
http://www.peterrabbit-movie.jp/

チャリティのご報告

2017年9月9日に開催された「nukumori vol.8」にて集まった募金
1万8500円(端数切り上げ)は、
今回も宮城県の施設dogwoodに寄付いたしました。
併設する動物病院から犬猫ワクチンを購入し、
東日本大震災の被災ペットたちに役立てられます。
また、コラボグッズの売り上げと
出演者(nukumori vol.7)からのチャリティ、
dogblessyou商品のチャリティも加え、13万9500円(端数切り上げ)を
dogwood一般社団法人 日本聴導犬推進協会に寄付いたしました。