エリック・クラプトン 12小節の人生

 数ある音楽ドキュメンタリーの中で、主役が第一線で活躍している現役アーティストであり、自らナレーションを担当するなんて、とても貴重な作品です。


 クラプトン本人はこの映画に関してこうコメントしています。
「自分をあまりにも曝け出しているから、心が痛かった。こうして、まだ生きていることに感謝したいよ。多くの人に観てほしい。」
確かに、受け取るものは深く、壮絶。

 映画冒頭、現在のクラプトンが登場し、カメラ目線でメッセージをします。そこには、B.B.キングへの想い、ビギナーに向けておすすめアルバムを紹介してくれるなど、自然体の語り口に和みます。そしてすぐさま舞台は、生まれ故郷の景色に変わり、少年時代にまで遡ります。

 祖父母に育てられ、実の母親に拒絶されるという衝撃的な体験が明かされます。そんな家庭環境から、世間に対する不信感や怒りを持つようになった少年が出会ったのは、音楽、ラジオ、そしてギターでした。エリックと音楽を結んだのは、土曜朝のラジオ番組!。チャック・ベリーを聞き、ロバート・ジョンソンに夢中になった少年は、念願のギターを買ってもらいます。ずっとギターを弾いていた少年は、1963年、ロンドンで人気のバンド、ヤードバーズにギタリストとして迎えられ、ここから、バンドマンとしての長いヒストリーが始まります


 若かりし頃のザ・ローリング・ストーンズ、ザ・ビートルズなど著名アーティストたちの貴重なアーカイブ映像や、ヤードバーズ、クリームなどのバンド時代も、次々とアーカイブされます。初めてクラプトンを知る人にも、本人が当時の気持ちを語っていくので、どんなバンドに加入し脱退し、また新しいバンドに行くのかなど、とてもわかりやすく説得力があります。時代の人気者となった天才ギタリストの気持ちになって、ハイになったり、怒りに満ちたり、、、
 なんといっても、赤裸々なのは、ギターを愛し、ギターを競い合った親友を失った喪失感。そして、親友ザ・ビートルズのジョージ・ハリスンの妻への熱い想い。ここから彼の人生は大きく傾き、アルコール依存、ドラッグ、愛する息子の死、、、彼の人生はどこに向かっていくのか、現在を知っていてもファンは不安でたまらなくなるでしょう。ファンにも罵倒される酷いパフォーマンスや、片思いに悩むラブレターなど、これは世に出せないでしょう、という映像や写真にも驚かされます。しかし、どれも飾ることなく、今のクラプトンが自分の言葉で明かしてくれることに大きな意味があるのです。

 また、ジョージ・ハリスン、ジミ・ヘンドリックス、B.B.キング、ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・ビートルズ、ボブ・ディラン、アレサ・フランクリンなど、すごいアーティストたちと入ったスタジオの様子や、オールマン・ブラザースのデュアン・オールマンとの「いとしのレイラ」の貴重なレコーディング風景など、名曲たちの誕生は驚きの連続、必見です。

 アカデミー作品賞受賞作「ドライビング Miss デイジー」をプロデュースしたリリ・フィニー・ザナックが監督を勤め、素晴らしいアーティストドキュメンタリー「シュガーマン 奇跡に愛された男」のジョン・バトセックがプロデュースを担当。編集は、「エイミー・ワインハウス」のドキュメンタリーを手がけたクリス・キング。音楽は「ブロークバック・マウンテン」のグスターボ・サンタオラヤが手がけました。心に響く素晴らしい作品を生み出した人たちが、エリック・クラプトンの人生に集約しています。

 25年来の友人のリリ・フィニー・ザナック監督によると、エリックはとても内向的な人間ですが、別の部分では真実を欲していて、自分自身の弱点をさらけ出すことをためらわない人だそう。だから彼について、誰がどんな憶測を持っていようが、メディアにどんな見出しが出ようが、この映画の内容には敵わないと思うと語っています。

 今、曝け出してくれてありがとう。すぐに彼のギターを聴きに行きたくなる、珠玉のドキュメンタリーです。

タイトル:『エリック・クラプトン~12小節の人生~』
11/23(金・祝)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
配給:ポニーキャニオン/STAR CHANNEL MOVIES
提供:東北新社
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